2015年01月22日

音の洪水

都心に暮らし、働いていたころは
いつも音楽を聴いていた気がする。
外界をシャットアウトして。

身体を壊して疲れ切ったころ、イヤホンを外してみた。
電車で、駅で、街で、気を配する範囲が急に広がった。


田舎で勤めていたころは
車でいつも音楽を聴いていた。

耳の病気を患って、なんとなく聴くのをやめた。
風の音、鳥の声、空の色、街の音、木々のざわめく音と匂い。
急に世界が鮮やかになったのを覚えている。



今、私たちの日常にはテレビがなく、家は静かで穏やかだ。

音や映像に脳内をもってかれるのが好きではなく、
車は音楽もラジオも流さない。


ショッピングモールは苦手。
けたたましい音と光、消費と浪費、欲望の誘導。
無数の作為的なエネルギーを感じてしまい
空恐ろしくなって逃げ出したくなる。

スーパーもドラッグストアも苦手。
電気がビカビカ眩しいし、音楽はハイテンポで鳴り響く。
小さな画面から熱心に映像と音が攻勢をかけてくる。
子どもを連れてきたい場所とは決して言えない。

待合室にテレビのある病院が多い。
本当に具合が悪いとき、テレビの騒音は凶器だった。
だから、なるべくテレビの置いてない病院を選んで通う。
どうしてものときは、テレビが見えない場所に座る。

私のパソコンは、音が出ないようにケーブルを抜いてある。
光だけでも刺激が強いのに、音まで発してこられたら
動物として頭がパソコンに没入してしまう気がするし
そんな時間を費やすより、家族と過ごしたい。牽制でもあるのだ。

携帯の放つ電子音が苦手で、
18歳で買ったときから、ずっとマナーモードで使っている。

知育玩具の音や、戦隊モノの玩具の音も苦手。
子どもの心を育てるのは、決して電子音ではないと思う。

子どもたちによって、無秩序にガシャガシャピーピロと
鳴り散らされる楽器の音も、胸が痛くてたまらない。
うちでは、楽器は丁寧に扱う条件でのみ、使ってよいことにしている。



きっと、山奥で生まれ育った私は、
小川の音、風の音、山の音、葉っぱの音、虫や鳥の声に
呼吸をするように抱かれる、その心地よさを忘れられないのだと思う。

「そんなんじゃ生きていけないよ」と言われることもある。
「へぇ、なんか、大変だね」と呆れられることもある。

でも、この大きな渦に飲み込まれずに過ごしてみないと
気が付かないことだって、あるのだ。



そもそも、人間が地上に登場して以来
どんな音に抱かれてきたのかを考えれば
現代の音の洪水は、確実に動物として異常事態であり、
時として心身を蝕むほどのストレスになると思う。

ただ、それを面と向かって人に言うことは、
徒労に終わると思うので、滅多にしない。



昨日今日と、仕事や付き合いが重なり、
娘たちを連れて出かけることが続いた。

つくばに暮らして三年目。
初めて、ちょっとした商業施設の片隅に入って椅子に座った。

携帯ショップのテクノ系の音楽がずっと聞こえてきて、息苦しくなる。
窓の外には気持ちの良い風が吹いているというのに、
どうしてこんなにせわしない空間が作られるのかなぁ。
次女(8ヶ月)が全身で音や光、商業の圧力を感じているのがわかる。

狭い室内で笛や太鼓を子ども達が鳴らし続ける場面もあった。
帰ろうよ、早く帰ろうよ。私と次女の身体はぎゅっと強張る。

来訪した母がどうしてもラーメンを食べたいと言うので
ラーメン屋を探して入ったが、けたたましいバラエティ番組の音は
私や娘たちを確実に落ち着かなくさせ、気もそぞろに食事をした。


欲しがらせ、買わせ、使わせ、飽きさせ、もっと欲しがらせる戦略の上で
時間を、音を、光を、精力的に消費するエネルギー。
太くて前向きで、貪欲とも言えるベクトル。

そうした一切合財を思って悲しくなり、帰路につく。
ゆっくり、家族と生きていけば、また違う風景が見える。

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今の世の中、たとえ数時間でも、
自分だけのことに時間を費やすことは、簡単ではありません。

テレビ、ラジオ、スマートフォン、広告、音楽、
ありとあらゆる外部からの情報があなたに押し寄せてくるでしょう。

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偶然から生まれる、思考と言葉と沈黙の旅。
1/25(日)はフリーテーマです。


静かに自分の想いを巡らせる時間。
締め切りは明日、23日です。

posted by miya at 16:32| Comment(0) | ゆっくり生きる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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