
あるとき、夫がアルバムの整理に取り掛かった。
知らない旅、知らない時間。
異なる人生を歩んできたのだから当然だけど
まだよく知らないそれらの時間を詳しく訊くのは
もうちょっとあとで、と思っている。
あるいは、何年もかけて、ゆっくりと。
だから、ちょっと離れて座る。
居間に、少しぎこちない空気が漂う。
若い時は、一緒に撮れなかった。
いまだ、二人の写真はほとんどない。
ふいに夫が言う。
「写真、いっぱい撮ろうね」
鼻の奥がつーんとする。本の文字が滲む。
横顔のまま、うん、と気のないような返事をした。
ラベル:夫婦